本日は、東京大学大学院人文社会系研究科、宗教学宗教史学博士一年の中島和歌子さんに「宗教学ってなに?」というタイトルでお話し頂きました。
日本人は無宗教と言われ日常的に宗教を意識することが少なく、またオウム真理教や宗教に絡んだ紛争などのイメージがあるため、どうしても宗教というとネガティブなイメージを持ってしまう場合もあります。
しかし、今回は「宗教学」という新しい視点から宗教をとらえることができたため、見方が変わったという参加者が多くいました。
前半は宗教学という学問に関するお話を、後半は中島さんの研究テーマである「ケルトの渦巻き模様」に関するお話をして下さいました。
「宗教学って、宗教を扱う学問でしょ?」
それは半分しか正解ではありません。
宗教を扱う学問には主に2種類有り、一つは「神学」、もう一つが「宗教学」です。
神学は、自分自身が信仰する宗教に関する研究を行います。
宗教学は、他人の宗教を解釈しようとする研究です。(自分自身の信仰と一致する必要はなく、また研究者本人が無宗教でもかまわない)。
これが、「宗教学」を理解する大きなポイントです。
「宗教を学ぶ」というと、主観的、恣意的なものを連想してしまうかもしれません。それは、「神学」のイメージが強いからだと思います。
しかし、宗教学は客観的な目線から宗教を研究しています。
「神様は本当にいるのですか?」という質問に対して、宗教学は答えることはできません。しかし、「神様を信じている人たちはどうしてそう考えているのだろう?」というテーマを議論していくことはできます。
宗教学は、19世紀のヨーロッパで発達しました。大航海時代を迎え、これまでのキリスト教的価値観以外の宗教観がヨーロッパにもたらされたため、その宗教を理解するために宗教学が構築されたのです。
宗教学は、「他の人が大切にしていることを理解するため」の学問なのです。
日本では宗教的なものは敬遠されがちですが、実は身近に宗教に由来するものがあふれています。
十字架はアクセサリーでおなじみですし、ネイティブアメリカンに由来する「ドリームキャッチャー」も、画像を見てみると「見たことある!」と思うでしょう。
とりわけ、ゲームや漫画、アニメの世界では宗教的なモチーフが多く取り入れられています。
ドラゴンクエストのセーブ画面では、キリスト教的な影響が色濃く出ている、と指摘されていました。
宗教的なモチーフは様々な場面に出現しているのです。
キリスト教ではクロス、イスラム教では月と星など、宗教を象徴するモチーフは多くあります。
その中で、中島さんはケルト地方の宗教に関連する「うずまき」に着目しました。
「うずまき」というと、中国の祥雲などに代表されるように、「おめでたいもの」、生命力があふれるもの、というイメージを持たれるモチーフです。
中島さんは、パリに旅行した時に初めてケルトの渦巻き(トリスケル)に出会いました。そのまま渦巻きの発祥地、ケルト地方へ足を伸ばし、ある疑問にであいます。
「ケルト地方=うずまき模様、というイメージは定着していて、お土産にも多用されている。でも、この地方に渦巻き模様をかたどった遺跡や文化財はない。普通、遺跡や遺産からモチーフが取り上げられるはずなのに。なぜ?」
帰国後、フランス語の文献で「渦巻き模様の人気が出たのは第二次世界大戦以降」という記述に出会います。
それをヒントにさらに調べていくと、第二次世界大戦頃、ケルト文化が色濃く残るブルターニュ地方において、独立運動が行われていたことが分かりました。その運動を率いていたブルターニュ独立党が、運動のモチーフとして、旗や党員カードなどにケルトの渦巻きを使用したのです。
文化財などはないにも関わらず、キャッチーなモチーフとしてケルトの渦巻きは運動に取り入れられ、ブルターニュ地方に浸透していきます。
そうして、今ではケルトを代表するモチーフとしてお土産などに使用されるようになりました。(裏事情として、豊かではないブルターニュ地方は観光産業に頼っているため、キャッチーなモチーフを使いたかった、という都合もあるようです)。
私はこのケルトの渦巻きに関する研究の流れを聞いて、「宗教学って、政治学であり歴史学であり、美術史であり哲学であり、幅広い分野を扱っているのだな」と思いました。中島さんも、「宗教学には本当にたくさんのテーマがあり、扱う分野がとても広い」とおっしゃっていました。それだけ、宗教というものが人間に密接に関わっている証拠でもあると思います。
「宗教を扱う」というと、とても主観的なイメージを持っていましたが、文献から史実を調べ、事実をくみ上げて考察していく、学問体系として何ら色眼鏡で見るべきものではありませんでした。
むしろ、「他の人がどうしてこう思うのか、知りたい、理解したい」という部分に立脚する学問であるため、これからの時代に必要とされる研究であると感じました。
皆さんもぜひ身近な宗教的モチーフに目を向けて、「なぜ?」と思ってみて下さい。
中島さんおすすめの、宗教に関する本
『精霊の守り人』(ガンガンコミックス) 藤原カムイ
『宗教学入門』 脇本平也